僅か16年の悠斗の人生、その証をここに残します
ホーム 裁判 ブログ
事故現場概要 冒頭陳述要旨 被告事件に対する陳述 被告人質問(1回目) 被告人質問(2回目)
意見陳述 論告要旨 弁論要旨 判決

論告要旨(2011年2月10日 第2回公判)

第1 事実関係
1 本件控訴事実は当公判廷で取調べ済みの関係各証拠により、証明十分である。 しかしながら、被告人及び弁護人は、自動車運転過失致死罪の成立を認めながらも、控訴事実中、「時速90キロメートルで進行した」との点につき、時速80キロメートルであったなどと、控訴事実と異なる内容の主張をしている点があるので、以下、これらの点に関する検察官の意見を述べる。


2 関係各証拠により認められる事実
(1) 被告人車両は、甲1号証添付の交通事故現場第2見取図(以下、地点の引用はすべて同見取図のもの。) の@地点において、時速約70キロメートルで○A地点を進行していた○○○○(以下「○○」という。) 運転車両に並び、その後、同車両を追い越した。

(2) 被告人車両は、○×地点で被害車両(自転車)に衝突し(その際の被告車両の位置がD地点、被害車両の位置がウ地点である。)、このとき、時速約70キロメートルで運転進行していた○○は、○C地点で本件事故を目撃した。

(3) 被告人車両に衝突されたことにより、被害者は、○×地点の約39.8メートル先のオ地点に倒れ、被害車両は、○×地点の約37.8メートル先のエ地点に倒れた。
 なお、被告人は、本公判廷において、被害車が「破片散乱」と記載された辺りに倒れ、その後、自分で歩いて自転車を押しながらオ地点まで行ったなどと供述しているが、全く根拠のない憶測でしかなく、被害者の負傷状況等に照らしてもあり得ないのであり到底信用することはできない。


3 客観的事実が推測される被告人車両の速度について
(1) 速度鑑定の結果(甲9、甲10)によれば、衝突時における被告人車両の速度は、 前記2(3)の被害者がはね飛ばされた距離から計算すると、低めに見て時速71ないし84キロメートルである。 さらに、被告人車両の停止距離をも考慮ると、時速80ないし100キロメートル前後であった可能性が大きい。 この鑑定結果は、新潟県警察本部科学捜査研究所の技術職員が、本件現場や各車両を実際に確認した結果を踏まえ、理論的計算式に基づいて算出したものであり、基本的に信用できるものである。

(2) 他方、前記2(1)及び(2)によれば、時速約70キロメートルの○○車両が○AA 地点から○5地点までの約149.3メートルを進行する間に、被告人車両は@地点からD地点までの約236.7メートル進行しており、単純計算で、追越し開始後の被告人車両の平均速度は、時速110キロメートル程度にもなる。(なお、○○車両が○B地点から○C地点までを進行した距離と、被告人車両がA地点からD地点まで進行した距離とを対比して計算すると、更に高速度になることから、若干の誤差はあり得るが、○○の調書によっても、被告人車両が○○車両を相当程度上回る速度であったことは優に認められる。)


4 被告人の捜査段階の供述(乙2の検察官調書)の信用性
(1) 被告人は、捜査段階において、「@地点辺りのとき、スピードメーターをちらっと見たところ、時速100キロメーターを超えているのがわかった。その後、○Aの車(○○車両)を追越し、進路をA地点に取り、それ以降、時速90キロメートルくらいに減速して進行した。B地点まで進行してきたとき、左方道路のア地点に何か左から右に動く影のようなものが見えた。その影のようなものは、何だかはっきり分からなかったが、自分の進路上に出てくると思ったので、ブレーキをかけながら進路を右の方に取った。幸い対向車がなかったので、ブレーキをかけつつ進路を右に取りながらC地点まで進んだところ、イ地点で、被害者が自転車に乗って交差点にむかってきたのがはっきり分かった。私は、かけていたブレーキをさらに強くして、急ブレーキをかけると共にハンドルを右の方に切ったが、D○×ウ地点で、自車左前部を被害者の自転車に衝突させてしまった。私の車はE地点に停止し、車から降りると、被害者がオ地点に倒れていた。」旨供述していたものである。

(2) 同供述は、具体的で、被告人車両の動きや停止位置等につき、特段不自然な点はなく、申告速度については、若干遅いとの感があるとはいえ、前記3のとおり推測される速度の範囲を大きく逸脱するとまではいえず、概ね信用できる。


5 被告人の公判供述が信用できないこと
(1) これに対し、被告人は、公判廷において、「A地点に戻ったとき、時速84か85キロメートルで、徐々に減速したと思うので、C地点に来たときは、推測だが、時速70キロメートルくらいだったと思う。黒い影を目撃した地点は、B地点ではなく、C地点であり、同地点で軽くブレーキを踏んで中央に出て、D地点の前の街灯辺りでブレーキを強く踏みはじめ、ハンドルを右に切ったが、衝突した。その後、図の「破片散乱」の「散」と記載された辺りで車が止まり、車内で何分か混乱した後、車を前に出し、E地点に停止した。」などと供述している。

(2) しかしながら、同公判供述は、調査段階での供述を突如として大きく変遷させるものであり、その変遷理由について。「検察官に話したときには、まだ頭が整理されていなかった。」などと述べるものの、前記4(1)の供述は、本件事件の約1か月半後の任意の取調べ時になされた供述である上、その際の速度に問答状況等に照らせば、不合理というほかない。
 また、同公判供述における申告速度は、前記3で推測される速度と大きく矛盾するものである上、同公判供述は、場当たり的に二転三転し、支離滅裂である点が多々見られることも考慮すれば、到底信用することはできない。


6 結論
 以上のとおり、前記3の事実及び被告人の捜査段階の供述 (乙2の検察官調書) によれば、被告人車両の速度(A地点からC地点付近までのもの)は、少なくとも、その供述するところの時速90キロメートルは出ていたと認められる。
 なお、被告人は、被害者をはね飛ばしていないとも主張するが、関係各証拠によって被害者をはね飛ばした事実は優に認められるのであり、被告人が些末な表現にこだわっているだけに過ぎないというべきである。
 したがって、控訴事実の証明は十分である。


第2 情状関係
1 被告人の過失は大きい
 被告人は、夜間、法定速度制限の道路において、先行車を時速約100キロメートル以上の速度で追い越した後、本件交差点付近に至っても、時速約90キロメートルもの高速度で進行するなどし、本件事故を起こしている。
 たとえ、自転車を運転していた被害者が一時停止等をすることなく本件交差点に進入したという事情があるにせよ、視界の良くない夜間に、交通整理がされておらず、横断歩道もある本件交差点付近を、その手前で停止することが不可能な高速度で進行等する運転行為自体、極めて危険で、自動車運転者としての基本的な注意義務に違反したものといえ、被告人の過失は大きい。


2 結果は極めて重大である。
本件事故により、まだ16歳になったばかりの被害者の尊い命が奪われたという結果は極めて重大である。
被害者は、高速度で進行してきた被告人車両に大きく跳ね飛ばされ、全身に多骨折等の多数の傷を負って亡くなっており、事故の瞬間に被害者が感じたであろう恐怖や肉体的苦痛は甚大であったと認められる。
被害者は、部活動のサッカーに励み、たくさんの友人に囲まれ、充実した高校生活を送っていたのであり、その部活動を終えて帰宅中、これからまだまだ続く青春を謳歌いるチャンスも、将来の夢も、すべてを一瞬のうちに奪われ、非業の死を遂げたのであって、その無念さは、察するに余りある。
また、最愛の被害者を失った遺族らの悲しみや苦しみは誠に大きいものがあり、その心の傷は永遠に癒えることはないのであり、これも本件事故が招いた結果なのである。
以上のとおり、本件事故の結果は極めて重大である。


3 遺族の処罰感情は非常に厳しい。
被害者の父親は、この法廷における意見陳述で「病院で待っていたのは、衝撃でした。あまりにも痛々しい姿の、無言の悠斗でした。冷たくなった変わり果てた悠斗の姿が目に焼き付き忘れられません。私たちが悲しいという気持ちより、悠斗自身がもっと生きたかっただろうと思うと可哀想で仕方ありません。悠斗を思い出して涙する日々が続きます。声を大にして叫びたい。もう二度と悠斗に会えない。悠斗を返して下さい。被告人に対しては悠斗の悲惨な状態に値する自動車運転過失致死罪に対する最高刑を強く望みます。」旨述べ、被告人に対する厳重処罰を求めている。
遺族らがこのような気持ちを抱くのは至極当然のことであり、こうした遺族らの厳しい処罰感情は、本件結果の重大さを表すものであるから、量刑上も最大考慮されるべきである。


4 交通法規軽視の姿勢が招いた事故であり、悪質である。
被告人は、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ 今回、またしても速度超過をして本件重大事故を引き起こしている。
 こうした経緯を見れば、本件は、偶発な事故ではなく、被告人の交通法規軽視の姿勢が招いた事故といえ、悪質である。


5 本件事故の重大性を十分認識しているとは到底言い難い。
被告人の公判廷での供述態度は、自己の責任を少しでも軽くしょうと汲々とするがごとくあり、本件事故と真しに向き合い、その重大性を十分認識しているとは到底言い難い。
 それ故、そのような被告人が、今後も交通違反や事故を繰り返すのではないかということも懸念される。


6 まとめ
  以上によれば、被告人の刑事責任は重く、罪の成立を認めていることなどの有利な事情を考慮しても、被告人を厳しく処罰する必要がある。


第3 求刑
以上の諸情状を考慮し、相当法条を適用の上、被告人を
      禁錮 1年4月
 に処するのを相当と思料する。


ホーム 裁判 ブログ
事故現場概要 冒頭陳述要旨 被告事件に対する陳述 被告人質問(1回目) 被告人質問(2回目)
意見陳述 論告要旨 弁論要旨 判決
事故現場