弁護人:調書には、時速90キロメートルで進行して交差点に入ったとあるのですが、本当は時速80キロメートルですか。
被告人:はい。
弁護人:何で時速90キロメートルと述べたのですか。
被告人:まだ頭の中が混乱していたので。
弁護人:本件道路の制限速度が60キロメートルであることは分かっていましたか。
被告人:はい。
弁護人:時速80キロメートルでも20キロメートルのオーバーですが、それを分かっていて運転していたのですか。
被告人:はい。
弁護人:それ自体違反ですよね。
被告人: はい。
弁護人:あなたが被害者を見たのは、直線距離でどのくらいでしたか。
被告人:追い越してから、元車線に戻って、ちょっと走った辺りで左側に黒い影を認めました。
<証拠番号1の実況見分調書添付の「交通事故現場第2見取図」をしめす>
弁護人:あなたが被害者を発見した地点はBとなっていますが、どうですか。
被告人:Bではなく、Cの地点です。
弁護人:調書ではBと述べていたのではありませんか。
被告人:当初はBと述べましたが、実際はCです。
弁護人:Cの地点で被害者を発見したのに、どうして進行したのですか。
被告人:青信号でしたし、自転車が止まるとおもって。
弁護人:あなたの進行方向の信号が青になっていれば、自転車が止まってくれると思ったのですね。
被告人:はい。車のライトを見れば相手も分かると思いました。
弁護人:その後、あなたの車が交差点に入ったとき、被害者はどうしましたか。
被告人:止まりませんでした。
弁護人:あなたは、どうしましたか。
被告人:危険だと思って、ブレーキを掛けながらハンドルを右に切りましたが、自転車は、そのままの勢いで来て衝突しました。
弁護人:衝突したとき、エアバックは広がりましたか。
被告人:はい。
弁護人:エアバックが広がると前方は見えるのですか。
被告人:ほぼ見えないです。
弁護人:その後、見取図にある「破片散乱」という地点まで行き、車が止まったのですね。
被告人:はい。
弁護人:あなたとしては、被害者をはね飛ばしたのではなく、車のボンネットの上に被害者が上がったと思っているわけですね。
被告人:はい。
弁護人:それは確認したのですか。
被告人:いいえ。
弁護人:何で確認しないのですか。
被告人:エアバックで見えなかったので。
弁護人:「破片散乱」の場所まで来てから、どうしたのですか。
被告人:何が何だか分からず、車の中で何分間か混乱していて。
弁護人:被害者は、どうしたのですか。
被告人:被害者は、車が止まると同時に、フロントの上から下に落ちたと思います。
弁護人:自転車は、車が押してきたのかな。
被告人:はい。
弁護人:その後、被害者は、どうしたのですか。
被告人:見取図にある「破片散乱」という地点に車をとめていたのですが、交通の妨げになると思い、
車を前に出すと、車の後方くらいに被害者が自転車と一緒に倒れていたので、急いで声を掛け、
その後、救急車が来るまで声を掛け続けていました。
弁護人:被害者が倒れていたのは、自転車のマークがある見取図のエの地点ではありませんか。被害者は、自転車を持って、エの地点まで移動したのではありませんか。
被告人:推測ですが、多分そうだと思います。
弁護人:そうすると、「破片散乱」という地点からエのところまで、被害者の血痕が付いていたのですね。
被告人:はい。
弁護人:車のボンネットの上には、被害者の血がついていましたか。
被告人:付いていませんでした。
弁護人:落ちてから出血したのですか。
被告人:そうだと思います。
弁護人:そこで聞きますが、被害者は、携帯電話のイヤホンを耳にかけて音楽を聴いていたということですか。
被告人:時間が経って、後から思い出したことですが、この交差点に出てきたとき、ぶつかる直前まで、被害者は、下をむいて自転車で走ってきたのですが。
<(甲)証拠番号1の実況見分調査書添付の写真19を示す>
弁護人:自動車のボンネットと車体の間のところに「イヤホン」と書いてありますが、イヤホンが付いていたのですか。
被告人:はい。
弁護人:下がっていたのですね。
被告人:はい。
弁護人:前のほうには、被害者の「着衣の切れ端」がついていたのですか。
被告人:はい。
弁護人:この「イヤホン」というのは携帯電話に付けられたイヤホンなんですか。
被告人:はい。
弁護人:携帯電話は、どうなったんですか。
被告人:携帯電話は、後に、田んぼのなかから発見されたそうです。
弁護人:そのことをどうやって知ったのですか。
被告人:お通夜のときに、燕の警察官が田んぼから見つけたと、私の父親から聞きました。
弁護人:被害者が携帯電話のイヤホンを耳に掛けて交差点に進行したかどうかについては、あなたは、見ていないのですね。
被告人:見ていません。
弁護人:しかし、あなたは、そうだと思っているのですね。
被告人:はい、下を向いていたのは分かりました。
弁護人:あなたとしては、被害者がイヤホンを掛けていたということは分からなかったのですね。
被告人:はい。
弁護人:しかし、「破片散乱」という地点に車が行ったら、イヤホンがボンネットと車体の間に垂れ下がっていたということですね。
被告人:はい。
弁護人:まとめると、衝突したとき、被害者がボンネットの上に上がって、イヤホンが落ちて垂れ下がり、携帯電話が田んぼの中に飛んだのではないか、というふうに思っているということですか。
被告人:はい。
弁護人:あなたは、左の方が多分赤信号だろうと思い、左右を確認しないで交差点に入ったのですか。
被告人:はい。
弁護人:それで、被害者が出できて、びっくりしてハンドルを右に切ったけれども間にあわなかったということですか。
被告人:はい。
<(甲)証拠番号1の実況見分調査書添付の「交通事故現場第2見取図」を示す>
弁護人:Dはあなたの車ですが、これを見ると、ハンドルを右に切った形跡が書いていないのですが、これはぶつかった瞬間を書いてあるのですか。
被告人:そうだと思います。
弁護人:そうだと、これは真っ直ぐなんで、ハンドルを右に切ったということにならないのではありませんか。
被告人:いや、真っ直ぐではありません。
弁護人:右のほうに斜めになっていたのですか。
被告人:はい。
弁護人:事故としては、大体今述べてきたようなものだったのですね。
被告人:はい。
弁護人:あなたにも不注意があったのではないですか。スピードの出し過ぎ、前方左右の不確認とか。
被告人:はい。
弁護人:あなたの注意が行き届かなかったために事故に至ったのですね。
被告人:はい。
弁護人:事故を起こして、今は、どう思っていますか。
被告人:とても申し訳ないことをしたと思っています。
弁護人:毎日、仕事が終わると、花を持ってお参りに行っているのですか。
被告人:はい。
弁護人:今も、ずっと続けているのですか。
被告人:はい。
弁護人:事故の日からずっとですか。
被告人:はい。
弁護人:あなたは、スピードを出す癖があるのではありませんか。
被告人:いいえ。
弁護人:では、何で事故現場において、時速80キロメートルないし90キロメートルで走ってしまったのですか。
被告人:追い越した後、制限速度に落として家に帰ろうとしました。
弁護人:先行者を追い越すためにスピードを出し、徐々に時速60キロメートルに落とそうとしていて、その途中で事故を起こしたということですか。
被告人:はい。
弁護人:今後、遺族との示談のために努力できますか。
被告人:はい。できます。
<(甲)証拠番号1の実況見分調書添付の「交通事故現場第2見取図」を示す>
検察官:この図の中のBの地点はどういう地点ですか。
被告人:追い越しを終えて、元の車線に戻った地点だと思います。
検察官:Bの地点について、実況見分の際、あなたがどのように説明したか覚えていますか。
被告人:覚えています。当初は、Bで黒い影のようなものが見えたと警察官にはなしていました。
検察官:一番最初は、Bの地点で相手を見付けて、危険を感じた、ブレーキを掛けたのがこの地点である旨説明していませんでしたか。
被告人:説明していました。
検察官:その後、検察庁の取調べを受けた際、Bの地点について少し違った説明をしていたことは覚えていますか。
被告人:詳しくは覚えていません。
検察官:昨年12月20日に、検察庁で取調べ際には、Bの地点で、アの地点において、なにか黒い影のようなものが、自分ほうから見て右手に向かって動いていくのが見えた旨述べていませんでしたか。
被告人:たぶんそうだったと思います。
検察官:その説明は正しいのではありませんか。
被告人:それは間違いでして、後から思い出したのがCの地点です。
検察官:Cの地点はなんですか。
被告人:黒い影のようなものが見えた時に、危険を感じて、軽くブレーキを掛け始めたところだと思います。
検察官:Cの地点について、検察官の取調べにおいてどのように説明したか覚えていますか。
被告人:Cの地点で、ブレーキを掛けながらよけたと言っています。
検察官:Cの地点において、それまで黒い影であったものが、被害者の自転車だとはっきり分かった旨述べていませんでしたか。
被告人:はい。その時は、頭の中がはっきりしておらず、そう言いましたけれど・・・・。
検察官:検察官に対して、Cの地点で、被害者の自転車だとはっきり分かったという説明はしたんですか。
被告人:当時は、したと思います。
検察官:今は、Cの地点についてはどういう地点だと思っているのか。もう1回説明して下さい。
被告人:黒い影を目撃して、危険を感じたので、ブレーキを掛けながら進行した地点だと思います。
検察官:Cの地点でも黒い影としか思わなかったのですか。
被告人:交差点に街灯があるのですが、当時は、その街灯の電気が点いていなくて、暗い状態でして、
私の車は、会社を出てから、ずっとライトは下向きで走っていまして、近くに行かないと、はっきり自転車だとは分からない状態でした。
検察官:もう1回質問し直しますが、Cの地点に来たときでも、被害者のことをはっきりとは認識せずに、黒い影のようなものとしか見えなかったということですか。
被告人:はい。
検察官:それはなぜですか。
被告人:それは・・・暗かったので分からず、影のようなものと・・・。
検察官:あなたの話を聞くと、被害者の自転車が無灯火だったことが悪い、あるいは現場が暗かったのが悪いとしか聞こえないのですが、そういうことですか。
被告人:・・・。
検察官:「はい」か「いいえ」で答えて下さい。
被告人:・・・はい。
検察官:事故後、照射実験をしましたね。
被告人:やりました。
検察官:その照射実験によると、Cの地点にいるときライトが下向きでも、被害者は、あなたの車のライトに照らされているという結果で、見えるはずなんですよ。
被告人:はい。
検察官:また、あなたの後ろを車で走っていた目撃者は、あなたよりも後ろの位置から被害者の自転車のことを気づいているのですが。
被告人:はい。
検察官:それを踏まえて、なぜCの地点に来ても、黒い影としか見えなかったのですか。
被告人:青信号でしたので、安心していたのだと思います。
検察官:自分が不注意だと思わないのですか。
被告人:不注意でした。
検察官:弁護人の質問の中で、自転車が止まると思っていたという話がありましたよね。
被告人:はい。
検察官:それはこの図で言うとどの地点ですか。
被告人:ちょうどウの手前くらいです。イとウの中間くらいですかね。
検察官:この図で、自分がどの辺りに自分の車がいるときに、被害者が止まると思い、安心してそのまま進行を続けたのですか。
被告人:Cの手前くらいですかね。
検察官:あなたが最初に被害者に気が付いたのは、Cの地点と言ったのではありませんか。そうすると、なぜその手前で被害者が止まれると思うのですか、おかしいでしょう。
被告人:間違いました。大体、ちょっと過ぎたくらいですかね。
検察官:Cよりさらに先の地点ですか。
被告人:さらにと言いましても、ちょっと前に出たくらいだと思いますけど。
検察官:そんな直前になっても、被害者が止まると思っていたということですか。
被告人:はい。
検察官:先ほど、運転していた車の時速が90キロメートルではなく、80キロメートルである旨述べていましが、どの地点で80キロメートルであると言いたいのですか。
被告人:追い越してから、車線に戻ったときですね。
検察官:この図で言うとどの地点ですか。
被告人:自分の車線に戻ったAの地点です。
検察官:Aの地点で既に時速80キロメートルだったのですか。
被告人:多分、84か85キロメートルだと思います。
検察官:メーターを見たのですか。
被告人:いいえ。見ていないのですが、目撃者の話によると、目撃者は、時速70ないし80キロメートルで走っていたと言っているので、それで私の車の速度とあまり変わらないと思うのです。距離的にも。
検察官:目撃者の話を聞いて、供述を変えたということですか。
被告人:・・・。
検察官:昨年12月20日に、検察官に話したときは、Aの地点に戻って以降、時速90キロメートルで走っていた旨答えていますが、その時は、嘘を付いていたのですか。
被告人:いいえ。嘘ではなく、まだ頭の中が整理されていませんでしたので、そう答えたのだと思います。
検察官:事故から1か月半以上経っていますが、それでも整理されていなかったのですか。
被告人:まだ、はっきりと物事を決めることができる状態ではなかったと思います。
検察官:ではCの地点に来たときの、あなたの車の速度はどのくらいだったのですか。
被告人:坂を下ってからアクセルを踏んでいませんので、徐々に減速していたのだと思いますので、推測ですが、大体時速70キロメートルくらいだったと思います。
検察官:あなたが危ないと思い、急ブレーキを踏んだのはCの地点ですか、それとも、それより少し先の地点ですか。
被告人:Cの地点では、軽くブレーキを踏んで中央に出ました。
検察官:では、Cからどのくらい先で急ブレーキを踏んだのですか。
被告人:この図のDの前の街灯の辺りでブレーキを強く踏み始め、ハンドルを右に切りました。
検察官:その点はどうして検察官に話したときと内容が変わってきているのですか。
被告人:後から思い出したことなので、違うと思います。
検察官:あなたは、先ほどスピードを出す癖はない旨答えていましたよね。
被告人:はい。
検察官:さらに、先行車を追い越すためにスピードを出しただけである旨答えていますよね。
被告人:はい。
検察官:それはどういう意味なのですか。
被告人:妻の顔が早く見たくて、前の車を追い越して、速度を戻して制限速度で帰ろうと思っていました。
検察官:確認ですが、先行車を追い越すために時速何キロメートル出しましたか。
被告人:追い越す時の一瞬なので、スピードは出ていたと思うのですが、追い越してからは、減速して走っていました。
検察官:追い越したときは、時速何キロメートルでしたか。
被告人:時速100キロメートルくらいだったと思います。
検察官:制限速度60キロメートルの道路ですよね。
被告人:はい。追い越すためには、やはりスピードを出して、車線に戻ったときにスピードを落とそうと思っていました。
検察官:それは悪くないのですか。
被告人:悪いと思います。
検察官:あなたの話を聞いていると、先行車を追い越すためにスピードを出して、追い越しただけであり、その後、制限速度に戻そうとていたから問題ないというふうに聞こえるのですが、そう思っていませんか。
被告人:悪いとは思っています。
検察官:先行車は、時速70キロメートルくらいで走っていたようですが、それをさらに早いスピードで追い越すことは危ないとは思いませんか。
被告人:危ないとは思いますけど、当時は、対向車もなく安全だと思いまして・・・危ないと思います。
検察官:今回以外にも、対向車がいないときは、スピードを出して追い越しとかしていたのではありませんか。
被告人:いや、そのようなことはありません。
検察官:今回だけなのですか。
被告人:はい。
検察官:奥さんの顔を早く見たいというのは、今回だけに限ったことではないのではありませんか。
被告人:いいえ。今回だけです。
(この後、加害者の身上に係わる質疑、応答のため、約24行に亘り黒く塗りつぶされ確認できず)
検察官:あなたは、先ほど被害者が携帯電話にイヤホンを付けて音楽を聴いているようだという旨述べていましたね。
被告人:はい。
検察官:でも、あなた自身は、被害者が音楽を聴いていたかどうかは、はっきりとは分からないのですよね。
被告人:はい。それは分かりませんけど。
検察官:見ていないのですよね。
被告人:見ていないですけど、ぶつかったときに下を向いていたので、そうなのかと思います。
検察官:あなたの考えでは、今回の事故は、被害者が飛び出しのような形で交差点に入ってきたせいで起こった事故ということになるのですか。
被告人:それもそうなんですけど、やはり私のスピードの出し過ぎのせいだと思います。
検察官:もし、今回、横断歩道を渡ろうとしている人が押しボタン式信号のボタンを押して、急に信号が変わったとしたら、あなたは、止まれていたのですか。
被告人:多分、何かの処置をして、多分、止まれたと思います。
検察官:あなたが先ほど説明した図に基づく距離とか速度で計算したら止まれないのですよ。
被告人:はい。
検察官:自覚しているのですか。
被告人:自覚しています。
検察官:あなたは、止まれたといいましたよね。
被告人:ぶつからないように、自分で田んぼに落ちたりとかできたと思います。
検察官:今回、右に進路を取ったと言いますが、それは対向車がなかったので、たまたまできたのですよね。
被告人:はい。
検察官:対向車がいたらできないじゃないですか。右に動くことだって。
被告人:はい。
検察官:日ごろの自分の運転態度が招いた事故だと思いませんか。
被告人:招いた事故だと思って、反省しています。
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