判決 平成23年2月24日
確定 平成23年3月11日
主 文
被告人を禁錮1年4月に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は、平成22年11月4日午後7時12分ころ、普通自動車を運転し、新潟県燕市高木○○○番地○先の交通整理の行われていない交差点を小池方面から国上方面に向かい直進するに当たり、法廷速度を遵守するはもとより、前方左右を注視し、進路の安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、先を急ぐ余り、前方左右を注視せず、進路の安全確認不十分のまま漫然時速約90キロメートルで進行した過失
により、折から左方道路から進行してきた(被害者)(当時16歳)運転の自転車を自車左前方約24.2メートル地点に認め、急制動の措置を請じたが間に合わず、同自転車に自車左
前部を衝突させて同自転車もろとも同人をはね飛ばした上、路上に転倒させ、よって、同人に頭蓋骨多発骨折等の傷害を負わせ、同日午後8時25分ころ、同県三条市○○病院において、同人を前期傷害に基づく脳挫傷等により死亡させた。
なお、被告人は、公判廷において、(1)別紙交通事故現場見取図記載のC地点における自車進行速度は70キロメートルであり、判示交差点に進入する際の速度はそれ以下であった、(2)衝突後、自車は同見取図の「破片散乱」の「散」の字が記載された地点で一旦停止し、直接見てはいないものの、被害者もその地点で倒れた後、自ら自転車を引いてオ地点まで移動したもので、被害者をはね飛ばしてはいないなどと供述している。
しかしながら、まず、前期(2)の点について検討すると、被告人運転車両との衝突により、被害者は、頭蓋骨多発骨折、右鎖骨、肋骨、胸腰椎等の多発骨折、右血気胸等の傷害を負い、また、その自転車は、車体がくの字型に屈折し、破損により左側フレームが前輪から外れ、自走不能な状態となっており、かかる負傷状況にある被害者が、前期状態の自転車を引いて移動するなどということは到底考え難いところである。事後に確認された被害者及び自転車の客観的な各位置(エ点、オ点)並びにこれらを踏まえた捜査段階の被告人の供述内容 (乙2。なお、その信用性を争う被告人の公判供述によっても、その取調べ状況につき特段問題とすべきようなところは述べられていない。)等によれば、被告人運転車両の衝突後の停止位置はE地点と、また、被害者の転倒位置はオ地点と認めることができ、これに反する被告人の前期公判供述は、その極めて不自然な供述経過及び内容に照らし、全く信用することができない。
そして、前記 (1) の点について検討すると、被告人は、捜査段階において、前を先行して時速70ないし80キロメートルの速度で走っていた普通乗用車を追い越そうとし、同見取図記載の@地点で先行する同車を追い越して並びかけ、その際、自車のスピードメーターを見たところ、時速100キロメートルを超えているのが分かり、その後、追い越してから自車の進路をA地点の左側にとって進行したが、減速したので、A地点以降は時速90キロメートルくらいで進行した旨を供述しているところ(乙2)、その供述内容に特段不自然な点はなく、目撃者たる○○の供述内容(甲3)や、被告人運転車両の衝突後の前述停止位置等を基に物理法則を適応して、その衝突時の速度につき概ね時速80ないし100キロメートルと合理的に結論づけている捜査報告書 (甲9)によっても裏付けられており、十分信用することができる。
他面、被告人運転車両の速度についての被告人の公判供述は、罪状認否では時速約80キロメートルとし、被告人質問の途中からは時速約70キロメートルとするなど安定しておらず(そもそも、被告人自身、公判廷において、スピードメーターでその速度を確認したわけではない旨のべている。) 、自車と前期○○運転車両の速度が同じであったという点は前期○○の供述内容に明らかに反している上、前記(2)の点同様、その不自然な供述経過及び内容並びに公判廷にやおける被告人の供述態度に照らせば、到底信用することはできない。
以上のとおり、被告人の公判供述にかかわらず、関係証拠によれば、判示のとおり認めることができる。
(刑量理由)
被告人は、普通乗用車を運転して、交通整理の行われていない交差点 (なお、被告人進行道路の同交差点入口には横断歩道及び歩行者専用の押しボタン式信号機が設置されている。)を直進するに当たり、前方左右を注視せず、進路の安全か確認不十分のまま時速約90キロメートルもの高速度で進行して本件事故を引き起こしている。その過失は、一度歩行者等との事故が起きれば重大な結果を招来しかねない自動車の運転者にとっての、最も基本的な注意義務に大きく違反するものというべきで、本件過失の態度はかなり悪い。
被告人は、○○○○○○○なことから、なおさら法廷速度等の遵守に努めるべきところ、前述のとおり法定速度を大幅に超える高速度で運転等した結果、本件事故を引き起こしており、厳しい非難を免れない。本件事故によって生じた結果は、被害者の生命を無惨にも奪い取ったものであって極めて重大である。未だ16歳と若く、将来の希望に満ちた被害者が突如人生に終止符をうたねばならなかったその無念さには、言葉に尽くし難いものがあると察せられる。年若い息子の死に直視せざるを得なかったその両親等の悲嘆は非常に深く、被告人の公判廷における後記述態度も相まって、被告人に対し、厳しい処罰感情を抱くのも当然といえる。
被告人は、公判廷において、本件犯行につき、種々不合理な弁解に固執して自己の罪責の軽減を図ろうとしており、自らの行為の責任やそれが被害者及びその両親に及ぼした結果を真摯に反省している態度とは受け止め難い。以上によれば、被告人の刑事責任は重いというべきである。
もっとも、目撃者の供述によれば、被害者運転の自転車が無灯火で一時停止することなく本件交差点を横断しようとした事実が窺われ、被告人の過失は大きいものの、被害結果をすべて被告人のみに帰責するのは酷な面があること、被告人が、公判廷において、前述のとおり種々陳弁しつつも犯罪の成立自体は認めていること、未だ示談交渉に進展は見られないものの、今後、被告人加入の対人賠償無制限の任意保険より相応の賠償がなされる見込みがあること、被告人の父親が出廷し、今後の被告人の監督を誓っていること、被告人には○○○○○○○ことなど、被告人のために酌むべき事情もあり、以上の諸事情を総合考慮すると、被告人に対しては、主文のとおり判決するのが相当と判断した。
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